“やみつきになる後味”『キノの旅 -the Beautiful World-』

後味というのは、そのものの質を語る上で大事な要素です。

コーヒーのような苦く、けれど香ばしい後味。
紅茶のような渋く、でも優雅な後味。
果実ジュースのような甘く、さわやかな後味

では、『キノの旅』を表すとするなら。

コーヒーを飲んだら、甘いったるい後味。
紅茶を飲んだら、辛い後味。
ジュースを飲んだら、渋い後味。

見た目と味が結びつかない。
でも、何故かすごくおいしく感じる。

そんな作品が『キノの旅』です。

意外性、ギャップ、良い意味で期待を裏切る、なんて言葉では説明のしきれない。

そんな深みのある物語を、是非体験してみてください。

©時雨沢恵一・KADOKAWA アスキー・メディアワークス/キノの旅の会
画像:公式HPより引用

 

 

■こんな人にオススメ

★短編集が好きな方
★物語の意味を考えるのが好きな方
★どんでん返しが好きな方
★色んな世界を観てみたい方

※本紹介記事では、主に【アニメ(2017年)版】についての紹介をしております。

 

■推しどころ!

<鑑賞後の絶妙な後味>

※本作は、作品の造りと設定が少し特殊なので、まず簡単な前情報を記載しておきます。

『キノの旅』は、
旅人である“キノ”と、
その相棒である、喋るモトラド(バイクのような二輪車)の“エルメス”が主人公の物語です。
内容としては、彼らと、彼らの訪れる国、そしてそこに住む人々のお話がメインとなっています。
さらに、物語は地続きではなく、時系列や場所などが入り乱れた短編集です。

また、上記のキノとエルメスが主人公となる物語以外に、
・キノのお師匠様の物語、
・キノ同様に、各国を旅する青年剣士の物語、
・ある家族に奉仕する奴隷少女の物語
が綴られています。

前置きはこれくらいで大丈夫です。
ではさっそく、『キノの旅』を紹介をしていきたいと思います♪

本作の推しは“鑑賞後の絶妙な後味”です!

キノたちが訪れる国にはその国独自のルールや考え方、人々の生活があります。
『キノの旅』ではこの部分が、物語にとって非常に重要な部分となります。

例えば、
本作の第01話のタイトルは『人を殺すことができる国 -Jungle’s Rule-』です。

さぁ、どうですか?
このタイトルを見て、あなたはこの国がどんな国だと思いますか?

きっと、正解をドンピシャで当てられる方は少ないでしょう。
もちろん素直な意味ではありませんから、狙って書いているにしても、原作者の時雨沢さんには少し意地悪さを感じてしまいますね…笑

こんな風にタイトルだけ見ていても興味がわきませんか?
さらに、本編を見た後に再びこのタイトルの意味を考えてみると…なんていう楽しみ方もありますね。

ちなみに、第01話で登場する国はいったいどんなだったかというと…
是非本編を観て、ご自身で確認してみてください♪笑

また、面白さとして個人的に挙げるとすれば、“自分の芯が揺さぶられる”としておきたいと思います。

先ほど書いたように、本作に出てくる国や人々には独自の考え方やルールが存在します

当然、僕たちの常識や普通が通じないような国も存在するでしょう。
そういった国や人々を観て、鑑賞者が何を感じ、何を考えるのか…

そこがまた一つ、『キノの旅』を語る上で大事なポイントだと思います♪

とはいえ!

こんなことを考えなくても、非常に楽しく観ることのできる作品です!

感動できるお話や、つい笑ってしまうお話もあります。
また、各話すべて短編となっているので、気軽に観始めることができると思います!

第01話を見るだけでも『キノの旅』の世界や“独特な後味”を感じられると思いますので、気になった方は是非チェックしてみてください♪

補足
見直しているとタイトルだけでもスゴく楽しくなってきてしまったので、
“今作でアニメ化されなかった”かつ、“小説第1巻に出てくるタイトル”を少しだけ載せておきます。
「こんな国なのかな?」と予想してから、読んでみる/観てみる、というのもオススメの楽しみ方ですよ♪
・『人の痛みが分かる国 -I See You.-』
・『多数決の国 -Ourselfish-』
・『平和な国 -Mother’s Love-』

 

■作品紹介

『キノの旅』の全体的なあらすじはお伝えできている、かつ構成が短編集となっておりますので、
こちらのあらすじでは、本作の中からお話を一つ切り取って紹介させていただきます。

<あらすじ>

第09話「いろいろな国」より「徳を積む国 -Serious Killer-」

“キノ”と“エルメス”は通りに面したカフェでティータイムを送っていた。

その国はとても穏やかで、平和的な印象を受ける。

二人の向かいには、テーブルを挟んで一人の人物が座っていた。

コートに身を包んだ白髪白髭の老人で、凛々しくも穏やかな目つきを持つ、とても紳士的な老人だった。

老人がキノたちへ話しかける。
「旅人さんはすでに聞いただろうか。この国独特の“徳ポイント制度”について」

覚えのない様子の二人に、老人は話を進める。

この国では、誰かが素晴らしい行いをすると、その人に“徳ポイント”と呼ばれるポイントが与えられる。
そして、その人がどれだけ人の役に立つような行動をしたのかが、そのポイントによって瞬時にわかるという。

エルメスが老人に尋ねる。

「じゃあさ。逆に人に迷惑をかけたり、それこそ犯罪とかしでかしたら?減るの?」

老人は答える。

「そうだ。軽犯罪では少し。重大な犯罪では相当数。これがマイナスになると刑務所に服役することになる」

今度はキノが、老人に尋ねる。

「ということは、もし人の役に立つ行為をすでに何度も重ね、大きくポイントをためている人が悪いことをした場合、どうなりますか?」

老人は答える。

「そう、ポイントは相殺される。マイナスにならなければ無罪となる」

老人はさらに話を進め、制度について、その素晴らしさを語る。

そして、老人は自分がいかに他人のために尽くしてきたかを語り始める。

「私はね、今まで一生懸命にこの国の人たちに尽くしてきた。発明家として、経営者として、先月まではこの国の大統領を務めていた」

驚く二人。

そして、エルメスが再度老人に尋ねる。

「すごいじゃん。じゃあおっちゃん、相当ポイントが貯まったんじゃない?」

老人は答える。

「あぁ、貯まったよ。貯まった」

「どんくらい?」

老人は告げる。

「人を一人殺せるくらい、さ」
 

<自分の芯が揺さぶられる>
“揺さぶられる”というより“試される”という言い方でもいいかもしれません。

表と裏。正義と悪。生と死。自分と他人。
こういった、相対するものが物語の中で絶妙に描かれていて、物語を観終わると、心の中で何かがひっかるような後味があります。

僕としては、その後味の原因を自分の中で探るのが非常に面白いです!
物語や登場人物を、自分の価値観や常識と照らし合わせていくのは、何とも言えない緊張感と焦燥感があります。

なんというか、中毒性のある薬のようで…
まぁそんなものは当然使ったことないので、僕からは“はまらないパズルのピース”とでも紹介しておきます。

物語やキャラクターというパズルに、自分の持つピースをはめて完成させたい…のに、思ったようにピースがはまらない、どうして?

みたいな感じです。笑

さらに面白いのは、パズルのピースは多少ならサイズや形が違っても無理やりはめてしまうこともできますし、そもそも人によって持っているピースも違うという点です。
つまり、同じパズルのはずなのに、出来上がってみれば、人によって全く違うものが出来上がってしまいます。
そこに良し悪しや優劣、ましてや正解はないのですが。

…少し話が逸れました。
これも『キノの旅』のせい…いえ!おかげですね!笑

とまぁ、そんな楽しみ方を始めると、これほどまでに心が落ち着かない作品は少ないと思います。笑

ただ、これらの部分は原作小説の方に色濃く出ている要素で、今回紹介しているアニメ版では少し抑えめかなと思います。
それでも、アニメの中でそんな風に考えさせられたり、その片鱗だったりを垣間見ることができると思います。

そんな部分が気になった方は、是非原作小説の方を読んでみてください。
アニメとはまた違った奥深さを感じることができると思いますよ。

 

■最後に

本作は僕にとっても特に思い入れのある作品です。

何を隠そう、初めて読んだライトノベルがこの『キノの旅』でした。
衝撃的という言葉がまさしくで、間違いなく僕の人生に影響を与えたと思います。

そういったこともあり、本紹介文を書いていても、気持ちが昂ってしまってなかなかまとまりませんでした。笑

伝えきれていない部分が本当に多いとは感じますが、むしろその部分は、これから本作に触れる方にとって喜ばしいことになるのかも、とも思っています。
それくらい奥が深い作品だと思いますので、是非たくさんの方に観ていただければと思います♪

 

■作品情報

※本作は漫画版などの媒体が多いため、ここでは原作およびアニメ(2017年放送版)のみの記載とします。

作品名 小説:キノの旅 -the Beautiful World-
    アニメ:キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series
媒体 小説(執筆時既刊23巻)・アニメ(1クール全12話)
著者/脚本 小説:時雨沢恵一
      アニメ:監督・田口智久/シリーズ構成・菅原雪絵
出版/制作 小説:KADOKAWA、アスキー・メディアワークス
      アニメ:Lerche
公式サイト https://www.kinonotabi-anime.com/